簡易体験施設を用いた体験型安全教室の効果研究

当機構は街並みを再現したセットを使用し、体験型安全教室を実施しています。2015年の愛知県警察本部主催「BO-KENあいち」(当機構監修)、2020年「千葉県教育委員会 令和3年度地域や関係機関と連携した防犯教育公開事業・千葉県通学路推進事業」の防犯教育公開事業として実施した佐倉東小学校での体験型安全教室などでも、その施設を用いた体験型安全教室の効果は非常に高いことが明白となっており、より一層の開発と、常設化を目指しています。プログラム開発は、㈱ステップ総合研究所と共同で実施しています。㈱ステップ総合研究所 

下記、2021年3月27日、28日に実施した「体験型安全教室」の効果について簡単にご報告します。

<研究の動機>

1.コロナ禍で危険が増す子どもの安全
世界的大流行となっている新型コロナウイルス禍の下、特に子どもを取り巻く安全の世界は困難を極めている。これまではマスクで顔を隠した人には気をつけよ、が、今はマスクをしない人には気をつけよ、となっている。実際マスクをして子どもに近づき無理やり子どもを傷つける事件や事案が相次いでおり、例えば、福岡県では2020年10月、10歳の女の子が路上でマスクをしていた知らない男に声をかけられ、家に誘い込まれ、体を触るなどのいたずらを受けた。これまでも保護者や園、小学校教員の不安をかき立ててきたが、それに加えコロナ禍の下で子どもは危機的状態にあるといっても過言ではない。
コロナ禍が始まる前から、警察が把握した子どもをねらった事件は全国で減り続けていたものの、しかし2019年の1年間だけ見ても1日に24人近い小学生が全国のどこかで犯罪の被害者となっている。さらに幼い子どもを被害者とする警察把握の事件は着実に増えており、背景には、持ち物が盗られる・脅かされるなどの事件に加え、最近では児童虐待事件や幼い子をターゲットにしたワイセツ事件や児童ポルノ事件などこれまで見られなかった特異な事件が幼い子どもたちの間でも増えていることがある。また、事件にはならないがハッとヒヤッとする事柄が至るところで起きており、「変な人に声をかけられた」「後ろをしつこくつけられた」「人のいないところへ連れて行かれそうになった」「イヤな事をさせられそうになった」など「大変なことになる一歩手前の前兆かも知れない」と不安になる事案は各地でコロナ禍でも生じている。

2.見守る側の変化

保護者の生活スタイルは大きく変わり、子どもを一日中見守ることが難しくなっており、さらに地域の方々の高齢化は進み、通学路などを見守ることも難しい。それでなくともコロナ禍で通学路見守りパトロールは大変制約されてきている。街の要所に設置された防犯カメラは、犯人を捕まえることに長けていても、今「そこで起こっている」事件や事案を止めることはできない。子ども自身もやがて大きく育ち、一人で学校や塾に行き街を歩き、一人で危ないことに向き合わねばならない。それが大人になるということであり、こうしたことに備え幼稚園や小学校などでは「犯罪から子ども守る安全教育」既に2020年から小学校、2021年からは中学で始まっている。コロナ禍の下、子どもを狙った事件や事案は待ってくれず、実際、こうしている間も子どもを被害者とする事件や事案は起こり続けている。

<事件事例 男性(38歳)はオンラインゲームで知り合った小学校4年の女児を車に乗せ連れ回し、2日間自宅に監禁。警察は捜査の結果男性を未成年者略取愉快で現行犯逮捕(神奈川県2020年9月)。
3.コロナ禍でも実施できるより効果的な体験型安全教育プログラムの開発を目指す
ではどうしたらよいか。大切なことは、友だちと助けあうなどに加え、子ども一人一人が「犯罪から自分で自分を守る力」をしっかりつけることである。
当団体は、子どもたちに「自分で自分の命を守る力」を育むための体験的な教育プログラムを全国で実施している。本プログラムは、キッズデザイン賞も受賞するなどその効果も認知されている。本プログラムを、コロナ禍でも、より教育的効果をあげるために、またコロナの感染を防ぐ工夫をしながら、子どもたちに体験する場を提供するにはどうしたらよいか、検証しながら実践する場を設けるべく、今回3月27日、28日に簡易的な体験施設を用いて体験教室を開催することとした。またこの教室は子ども自身に力をつけるだけではなく、子どもたちの保護者にも「子ども見守り作法」を学ぶ場を提供することを目的とした。講師も、当団体講師のみならず、開催場所である中央区で長年ボランティアをされている方、また企業に勤めている社会人ボランティアなど、様々な立場の方々に参加してもらい、多様な社会の様相を疑似的空間である「まち」の中に投影させることを目指した。

<研究の概要>
簡易体験施設での安全教室の効果について検証した。①犯罪の実態に沿った簡易体験施設の設計、②体験型による安全教室実施、③施設の設計と(街並みの物理的環境)と体験的教育内容の相互効果、④汎用性について検証した結果、街並みを使用した体験的教育の効果が非常に高いこと、また簡易型から常設化する必要性があることがわかった。

<課題の着眼点>
犯罪の被害から子どもを守るため、大人の見守りと共に、子ども自身に危機を察知、回避、克服する力をつけることは必定である。しかしコロナ禍において、大声を出す、走って逃げるなど危機に関する学びの機会が減少、一方で街行く人が皆マスクで顔が覆われ、相互の不信・不安感が増している。子どもたちの安全安心が不安定な中、通学路で安心に駆け込める場、危ない場所などを設定した簡易的な「まち」を室内に造設し、体験型の親子安全教室を実施した。

<課題へのアプローチ>
1.コロナ禍の子どもへの犯罪実態を踏まえたプログラムを作成。つきまといや待ち伏せ、執拗な声掛けなどに重点を置いた内容にした。
2.学校から家までの疑似的な通学路を設置し、路上での事件・事案からの回避・離脱・克服を目指すプログラムにした。交通安全の観点も入れた。
3.コロナ対策及びより良い教育効果のため、少人数制にし、一回の入場を15組上限に設置、二日間で7回実施した。

<実績・ユーザーの評価・エビデンス>
保護者への調査では、子どもの安全確保に「役に立つ」と回答した者が95%、学習内容に「満足」が83%、他の友人にも「紹介したい」が96%であった。感想では「犯罪への怖さを教えられて、具体的な対策も学べた」、「実際にやってみることで身につきやすい内容だった。」と高評価であった